2018年11月21日、フランス人アーティストIvan Sigg (イバン・シグさん)を始め友人たちと、能楽師吉井基晴先生のお稽古場を訪れました。
吉井先生は重要無形文化財総合指定されておられる能楽師であり、Ivan さんもまた、Wikipediaにも名前の出ている第一線で活躍中のアーティスト。同時に小説家でもあり戯曲作家でもあるので、どういう展開になるか大変楽しみでした。
お話は、能の原点である前身から成立過程、足利義満将軍に見込まれ幕府おかかえの演劇となった安定期、明治時代から現在の状況までと広きにわたりました。
興味深かったのは、能楽は決して固定した古典演劇ではなく、たえず刷新しながら変遷してきたという点です。新作も出ています。最近では『水の輪』という環境問題を取り上げたものや臓器移植に関するもの、東北の震災に関するものなど、新作能が出ているとのことです。ニュース性に驚くばかりです。
能面:ざくっと受け売りすると、
1. 獅子口 (中国の架空の獅子)
2. 大べし見(天狗の面)
3. しかみ (鬼の面 -男の鬼)
4. 猩々 (お酒の妖精 猩々の面)
3. しかみ (鬼の面 -男の鬼)
4. 猩々 (お酒の妖精 猩々の面)
目に金色が入った面は、この世のものではないキャラクターの時に使われます。獅子口は中国の想像上の獅子で、使用演目は『石橋(しゃっきょう)』、大べし見と呼ばれる天狗の面は、鞍馬天狗など天狗さん用、しかみという鬼の面は『土蜘蛛』や『紅葉狩』などの妖怪に使われ、猩々はその名のとおり、お酒の妖精猩々がつける面です。面はおもてと読み、『つける』『かける』というそうです。
(写真上)
下段右端:(1)獅子口、
下段左端:(2)天狗の面(口が一文字)
上段は般若(女の鬼−角があるのは女性の鬼だけ)
および女性の面
写真上は(3)しかみ(男の鬼)
写真下は(4)酒の妖精猩々
(1)から(4)の面はすべて五番目(切能ともよばれる)、即ち 人間以外の異類が登場するカテゴリーに属します。いわば私たちはこの日は妖怪の世界を心地よく漂っていたことになります。(般若と女性の面は他のカテゴリーにはいります。)
あとは割愛しますが、女性の般若面でも、悲しみや喜びの表情が出せるとのことです。置いてある時には無表情ですが、吉井先生が面を手にし、少し傾けると、確かに面の表情が変わります。驚きの発見でした。
(表情の変化が出せる面はやはりうまいつくり手さんの手になるもので、しろうとだとなかなかそこまでいかないそうです。)
(表情の変化が出せる面はやはりうまいつくり手さんの手になるもので、しろうとだとなかなかそこまでいかないそうです。)
そのあと緻密な仕事がほどこされた能衣装や扇を拝見しました。扇にも意味があり、たとえば平家物語を基に書かれた「屋島」では、勝ち戦を牛耳る源義経の持つ扇には朝日が、負け戦側の平家側が持つ扇には夕日が描かれています。見事な全体の統一性にうなりました。
最後に先生が仕舞を舞ってくださいました。
(写真上:源氏の朝日、平家の夕日の扇)
この世界、「いとおもしろく、深くして」、まことに興味尽きない世界です。
最後に写真を提供してくださった皆様、ありがとうございました。
(Ecole de français Découverte - 23-11-2018)